「誤嚥性肺炎」にまつわる用語として、食べる機能や呑み込む力が低下した状態を「摂食嚥下障害」または「嚥下障害」といいますが、この言葉をご存知の方も多いでしょう。
摂食嚥下とは食物を認識し咬んで飲み込み胃に送るという一連の流れをいいます。
お口の些細なトラブルに気づいて、口の機能が低下する前にトラブルにアプローチすることで、クオリティオブライフをより高めることができます。
「食べる」を支えるお口の健康はもちろん大切
歯の役割
歯は、食物を細かく粉砕するための基本的な道具です。健康な歯は、食物の噛み砕きを効率的に行うことができ、それによって食物の消化吸収が容易になります。歯が無くなりその総数が少なくなったり、噛み合わせが悪くなったりした場合、食物を十分に噛む→咀嚼することができず、消化不良や栄養吸収不全の問題につながる可能性があります。
歯を失った場合、入れ歯やインプラント治療によって噛む機能を取り戻すことが可能です。これにより、食物を効果的に粉砕し、嚥下しやすくすることができます。
舌の役割
舌は食物を口の中で保持し、位置を調整する重要な役割を持ちます。食物を歯で噛み砕き、唾液と混ぜ合わせる過程では、舌が食物を適切な位置に導き、飲み込みやすい形状にするまでその動きを繰り返します。舌の機能が低下すると、食物をうまく保持したり、咀嚼したり嚥下することが困難になり、摂食・嚥下障害の原因となります。
頬などさまざまな筋肉の役割
頬やその他の口腔内の筋肉は、食物を歯で噛み砕く際に食物がこぼれ落ちないようにするために重要です。これらの筋肉は、食物を歯と歯の間、特に咀嚼に最適な位置に保持するのを助けます。また、嚥下の準備段階で食物を咽頭に向けて正しく導く役割も担います。
唾液の役割
唾液は噛む、味わう、飲み込むプロセスにおいて重要な役割を果たします。唾液は食物の消化を助ける酵素を含んでおり、食物を滑らかな塊に変えて飲み込みやすくします。また、口腔内の清潔を保ち、虫歯や歯周病のリスクを減らす役割もあります。
食べて飲み込むには実はさまざま重要な要素が含まれている
外へ出よう: お口の健康と社会参加の相乗効果
さまざまな研究において、人は、外出し、好きな場所へ足を運び、社会とつながることが、精神的、心理的な健康に良い影響を及ぼすことが明らかになっています。これは、「食べる機能」を維持し、「食べる意欲」の向上にもつながります。
外出することは、体幹機能の維持にも繋がります。外出の頻度が高いほど、四肢や体幹の筋肉量が増加し、「食べる機能」の維持が容易になることが示されています。これは、身体活動を通じて全身の筋肉を強化し、食物を効率的に咀嚼し、嚥下するために必要な身体的基盤を築くことに寄与します。
さらに、対人交流を通じて会話を楽しみ、笑う機会が増えることは、舌の筋力、すなわち舌圧を高めることにもつながることがわかっています。舌圧が高いということは、食物を効果的に咀嚼し、嚥下する能力が向上することを意味し、結果として「食べる機能」の維持に貢献します。
このように、外出することで得られる身体的、社会的利益は、口腔の健康を超えた「食べる機能」の維持や向上に重要な役割を果たします。身体を動かし、人と交流することは、ただ健康に良いだけでなく、「食べる」という基本的な生活機能を支え、豊かな食生活へと導く鍵となるのです。
何を食べるかより誰と食べるかも重要
食事は栄養を摂るという意味でも重要ですが、栄養だけではない食事の重要性があります。
昨今の研究からも、高齢者の食習慣の中で、一人で食べる、いわゆる孤食と健康の関連を調査した結果、口腔機能の低下リスクが高くなることがわかっています。
家族と同居していても、孤食は誰かと食事する共食に比べて死亡リスクが高くなる研究結果もあります。
おさらい!摂食嚥下の5つのステージとは
- 先行期 食物を目で見て確認し形や量などの食べ方の判断を行います。
- 準備期 食物を口腔内に入れ咀嚼し、唾液と混ぜ合わせ食物をまとめることによって飲み込みやすい状態にします。
- 口腔期 舌の動きによって食塊を喉(咽頭)へ移動させます。
- 咽頭期 食塊を喉(咽頭)から食道へ送り込みます。
- 食道期 食道の蠕動運動によって食塊を胃へ送ります。
- 目で見た情報、匂いの情報、お箸で触った時柔らかさなど食物を体性感覚情報として捉える。
- 脳の機能が低下してしまった場合でも、食物に関する記憶は残存していることが多い。
- 上下顎間距離が開口(チューイングサイクル第Ⅰ相)
- 舌が食物をどちらかの咬合面つまり噛む側(作業側・ワーキングサイド)に持っていく(チューイングサイクル第Ⅱ相)
- 食品を上下の咬合面で捕捉し、咬頭嵌合位(上下の歯が最も緊密に噛み合う)に向かって運動する時、最も咬合力が発揮される。(チューイングサイクル第Ⅲ相)
- 開口する時の筋肉(顎二腹筋・外側翼突筋など)と閉口する時の筋肉(咬筋・側頭筋・内側翼突筋)が収縮弛緩を繰り返す
- (人によっては咬頭嵌合位へ滑りこむ前に上下歯が滑走(チューイングサイクルⅣ相)その後反体側へ滑走(チューイングサイクル第Ⅴ相)
- 食塊の移送と気道の防御に大別される
- 軟口蓋は挙上し、鼻腔との交通を遮断。
- 舌は口蓋と接触し、頬、口唇と共に口腔内の圧を高め陰圧にし、嚥下中枢が起動し食塊を咽頭から食道入り口へ移送
- 蠕動運動と重力によって食塊を食道から胃へ移送。
- 食道入り口の筋肉が収縮して食物が逆流しないように閉鎖する
口腔健康へ関心を持つことがまず大切です。
お口の中の些細なトラブルに気づき、口腔機能の低下を防ぐためにも歯科医院への定期的な受診は心がけたいですね。